状況に埋め込まれた学習

ストレングスファインダーでも「学習欲」が強みな私は、さらに学習について学習すべく「状況に埋め込まれた学習」を読んだ。社会科学のようなテーマを認知心理学で解き明かすようで、前提知識の無い私には難しかった。


細かい考察は分からないなりにも、この本で言う学習が一般的なイメージである講義の受講や暗記とは一線を画すことは分かった。「正当的周辺参加」すなわち、実践集団に弟子としても潜り込み、最初は周辺的なタスクをこなしながらも全体像を俯瞰し、だんだん実践できる範囲を増やしてゆき、いつしか実践集団の一員まで成長するような学習を扱う。

新入社員OJTの立場から

ちょうど、ソフトウェア技術者として新入社員が配属されてきて、仕様設計やコーディングでなく、まずはシステムテストをやらせている。手順通り操作して「G」を付ける作業にはクリエイティヴさが無くて申し訳ないけれど、学習としては理に適っていると思い直した。

ちょうど書籍で紹介される仕立屋の事例で、新弟子が任せられるアイロン掛け→縫い→裁断の順番が、洋服をつくる工程とは逆方向だという話に通じている。いきなり新入りが布の裁断をやって布を台無しにすることを避ける狙いが言及されていた。それ以外に学びの観点で、上流から時間をかけて大きなPDCAを回す間に、下流から前工程に注意を向けつつCheck&Actionを数多く回せば目を養うことに意味がありそう。

新人ソフトウェア技術者のシステムテストに話を戻すと、「どうして先輩はこんな愚かなバグを埋め込んだのか?」という検証の観点もあり、「こんなにイケてないUIを描いたのか?」という妥当性の観点もあり、ソフトウェア技術者の仕事の全体像にアクセスするチャンスがある。そんな正統的周辺参加であることに気付いてもらいモチベーションを保ちたい。
問いを持ち、「自分ならこうする」という考えを持ってから上流の設計に進んでいただければ、上流から下流まで十全的にこなすソフトウェア技術者になった際に、よりイケてる設計が出来るようになると期待する。

親という立場から

子供が学校に通い出すと「勉強しなさい」という台詞を言ってしまいそうな予感があり、この本で述べられていることにハッとした。
「勉強」をする、というのはおかしい。 何かをするときに、「勉強」が結果的にともなっている、というのが本来の学習なのだ。
大学でPBL(Problem Based Learning)が取り入れられるのを見ても、学習が実践の中にあるという考えは世間からも受け入けられてきたように見える。一方で、でっちあげの課題ではなく、共同体の中でリアルな問題に取り組む社会的実践とするのは難しそうだ。インターンが社会的実践を担うようにも見えるけれど、いきなり来た人が2週間で成果を出せる課題自体がリアルでない。毎度、お題を捻り出すのに苦労する。

どうしても学校教育だと汎用性が必要で、学びを社会的実践から切り離さねばならないのは仕方ない面もある。一方で、自分の子供に対して本当に身に付けてほしいことは、社会的実践の中で学習させたい気持ちもあり、学校教育任せでなく親がお膳立てするものに思える。
身に付けさせたい事に対して、まずは親自身が実践集団の一員として十全参加している前提で、失敗しても致命的でない周辺から子供に任せてゆく環境をつくる。書いていて難しそうだと認めつつ、少なくとも子供を机に向かわせる事しかできない親にはならないよう気を付けたい。

共同体の運営という立場から

UX KANSAIもコミニュティ(=共同体)なので、共同体について言及されているトピックは意識が向く。そんな視点から引っかかったお話。
コピー機の修理をする技術者が修理をした過去の経験に関して「戦争物語」を互いに話す。そのような物語が、新しい修理を上手くこなすことの決定的な部分を構成している。新参者はどうやって修理をするかを学ぶと同時に、「戦争物語」を話すスキルも学び、実践共同体での正統的参加者になる。 
セミナー後のビアバッシュや個人blogにて、これまで蓄積した知識や自分のHCD/UXD経験を絡めてアウトプットするのも、「状況に埋め込まれた知識のパッケージ」だと言える。セミナーの要点まとめよりは、自分独自の視点や見解を織り交ぜるblogが好ましいのも、このあたりの話によるだろう。ひょっとすると、私は的外れな事を言っているのかもしれないけれど、その話題を語るのが適切かをリフレクションから学び取ろうとしている。
新参者にとっての目的は、正当的周辺参加の代用として語りから学ぶという事ではなく、正統的周辺参加への鍵として語ることを学ぶということである。
なかなかUXデザインを実践する場に恵まれた人は少ないのも事実だけど、幸いにもUX KANSAI参加者はblogでアウトプットする人がメチャクチャ多く、まさに「語ることを学ぶ」が健全に回っているなと感心する。

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